更年期障害の漢方治療

閉経前後の各5年間を更年期と言います。この時に、生活に支障がある症状が出るものを更年期障害と呼びますが、更年期になれば皆が皆、症状が出る訳ではありません。

漢方では体を動かすエネルギーを“気(き)”と言い、体全体の潤いを“血(けつ)”という字で表します。どちらも昼間体を動かして消費するので減っていきますから、次の日に使えるよう夜に再生産しておく必要があります。寝ている間に胃腸が気と血を再生産しているので、寝る時間が短いと、作る時間が短いということになり、気と血は必ず減ります。また仮にきちんと寝ていたとしても、胃腸が作っているので、冷たいものやぬるいものを飲食して胃腸が冷えて弱いとか、甘いものなどを食べて胃腸が重くて弱くなったりすると、気と血を作るスピードが落ちてしまい、これも気と血が減ってしまいます。

気が減ると、エネルギー不足で疲れる。
エネルギーが不足して切れると、水を動かせなくなりむくむ。
免疫力は気が司るので、免疫不足で感染症になり易くなったり、治りにくくなる。
癌を抑える免疫力も低下する。
精神面では、やる気が出ない、気落ちするなどの症状が出ます。

血が減ると(厳密には血管内の液体を“血”と言い、血管外の液体を“津液”と言います)、
潤いが無くなり乾いてくるので、便も乾いて便秘になり易い。
乾くと過敏になり、小さな事を大きなストレスとして受け止め易くなり、イライラし易い、不安になり易い、怒ると止まりにくいなどの症状が出ます。

ストレスがかかると、表裏を成す少陽胆経と厥陰肝経の流れが悪くなり、
胆経で流れが止まると側頭痛・項部痛・肩こり・耳鳴・季肋部痛・下肢外側痛が、
肝経の流れが止まると頭頂痛・目の奥の痛み・陰部痛・乳房痛が出ます。

更年期障害の典型的症状はホットフラッシュで、更に不眠も始まります。

乾いているので、ストレス・怒り・ピリ辛などの火が付き易くなり、火は上に上る性質があるので、頭まで上がり、ホットフラッシュが起こります。
頭が熱いのは起きている状態で、寝る時は頭を冷やす必要がありますが、頭に火が達して熱くて冷やせなくなり、不眠となります。頭が熱いので眠れない、眠れないので血が不足して乾く、乾くのでますます火が燃える、その為ますます眠れないという悪循環に陥るのです。
体全体の皮膚も乾き、かさつきます。

ですから、治療はこのしくみの反対をやれば良い訳です。

更年期障害は卵胞ホルモンの減少によって起こるため、現代医学では卵胞ホルモンを補充する治療をしますが、子宮出血や乳がん発生率上昇などの副作用があるためホルモン無しで治療する方がよいでしょう。基本通りにやれば、ホルモン剤なしで、すぐに治ってきます。

漢方的には血を増やして潤わせ、火が付きにくい体質にします。更に、上に登った火を消して、下向きに抑える必要があります。

漢方薬は養血薬を中心に、滋陰降火薬や平肝熄風薬を組み合わせ、不眠がある場合は養血安神薬を組み合わせます。
本格的な煎じ薬はほとんど必要なく、簡単なエキス剤のみで治ることが多く副作用も心配ありません。

ただし、漢方薬を飲んでも、睡眠不足があると気血が不足して、薬の効きが落ちます。
現状維持でも50歳前後で睡眠は7時間50分くらい必要ですので、症状を治す時はこれより1時間以上多く寝て、『血』を増やす必要があります。
症状が軽い時で8時間半、きつい時は9時間寝と、どんどん症状が治っていくのがわかります。

症状が無くなれば漢方薬を減らしていき、やがて漢方薬も要らなくなりますが、治った後も再発予防の為に、睡眠は8時間弱は取る方が良いでしょう。

さらに詳しく知りたい方は拙著「マンガ 睡眠と漢方で治す婦人科疾患」をご覧下さい。

漢方治療

前の記事

不妊症・不育症の漢方治療
漢方治療

次の記事

月経痛 の漢方治療