不妊症・不育症の漢方治療

不妊症・不育症の漢方治療

漢方では体全体の潤いを『血(けつ)』と呼びますが、昼間減っていきますから、夜に再生産します。睡眠中に胃腸が血を再生産するので、寝る時間が短いと、作る時間が短いということになり、血は必ず減ります。また、胃腸が冷えて弱ると、血を作るスピードが落ち、この場合も血が減ります。

妊娠前には、血を卵巣に送って、卵巣の中の卵を栄養しますので、血が不足すると卵が栄養不足で、体外受精の前に採卵しようとしても数が少なく採卵できなかったり、採卵して受精させても卵の質が悪く、分割が途中で止まって使えなかったりします。
血を子宮に送って子宮内膜を栄養するので、血が不足すると排卵期になっても子宮内膜が薄いままで、せっかく受精しても着床できず、体外受精の卵を戻しても着床しにくくなります。
妊娠できた場合も、血を胎児に送って栄養するので、血が不足すると胎児が栄養不足で死亡し流産してしまいます。

したがって、赤ちゃんを産むためには、どれだけ血を増やして、卵巣や子宮や胎児に送るかが重要になります。
その為に一番大事なことは、血を作る時間である睡眠を増やすことです。
自分の体を維持する為の睡眠に、胎児を栄養する為の睡眠を加えて、かなり多く寝る必要があります。

女性は月経で出血するので、それを回復する為に、男性より30分は多く寝る必要があります。
20代の健康女性で、自分の体のみを維持するのに7時間、
自分の分を削って胎児に回すのは負担がかかるので、胎児の為に1時間、
7時間+1時間で、最低8時間の睡眠は必要です。
体質や年齢で、更に睡眠時間を増やす必要がありますので、胃腸(漢方用語の脾)が冷えて弱かったり、痰湿で重くて弱い場合は、血を作るスピードが遅いため、30分上乗せして、8時間半の睡眠が必要となります。
年齢が上がると代謝が落ちるので、若い時と同じ睡眠時間では血を回復できません。
年齢が上がるほど、少しずつ睡眠を増やす必要があります。

40歳からは、9時間の睡眠が必要です。
40歳未満であっても、一度でも流産したり、体外受精を失敗した場合は、その時より条件を良くするため、9時間の睡眠が必要となります。
睡眠は暗い時間に連続して寝ることが大切で、昼寝で代用できません。また、遅寝遅起きすると、最後は明るくなって睡眠が浅くなるので、これも不利になります。夜遅く帰宅する人は、朝風呂にするなど、暗い時間に眠れる工夫をしましょう。

二番目に大事なことは、温かいものだけ飲食することです。胃腸(漢方の脾)の温度が37℃なので、これより暖かいものの飲食を徹底すれば、必ず胃腸は温まって強くなります。胃腸が冷えていると、血を作るスピードが落ちる上に、出血し易い体質になるので、月経が早く来ると血を失って増えませんし、妊娠中に出血すると流産の引き金になります。

三番目に大事なことは、家の中の優先順位を変えることです。
ご主人が好きで結婚した直後は、ご主人が1番、仕事が2番、家事が3番、自分が4番になりがちです。その結果、睡眠を削ってしまいます。
赤ちゃんが欲しい時は、赤ちゃんの優先順位を1番にしましょう。どれだけ親として赤ちゃんが子宮で育つのに有利な条件を提示してあげられるかが重要です。悪い条件ばかりを提示しても、赤ちゃんは生まれて来れるか不安で、子宮に来にくくなると考えましょう。
マンションを探す時と同じです。値段は高い、古くてボロボロ、隣に危ない人が住んでいたりしたら、入居したくないものです。少しでも有利なところに入りたいのは、赤ちゃんも同じです。
優先順位の2番が、母親になる貴女です。赤ちゃんを支えられるのは子宮がある女性だけ。男性は子宮がないので、金銭的に支えることはできても、肉体的に支えることはできません。
3番は、給料もらっている場合、仕事です。4番目がご主人。家事は5番目で、ご主人と分担して空いた時間にやりましょう。夜は赤ちゃんの為に血を作る時間で、家事の優先順位は遥かに下です。
御主人の帰宅が遅い場合は、御主人の食事の用意をしてあげてから、先に寝ましょう。無理して御主人を待つのは子作りをする日だけと、割り切る方が血が増えて、妊娠し易くなります。
御主人と同じ布団で寝ると、眠りが浅くなり、不利です。子作りの時以外は、別の布団に寝て熟睡しましょう。

漢方薬は血を作る作用の養血薬を中心に処方します。
これに他の漢方薬を組み合わせます。
気が少ない時は補気薬を、
ストレスで気血の流れが悪い時は疏肝薬を、
冷えで血の流れが悪い時は散寒薬を、
瘀血が流れを邪魔する時は活血化瘀薬を、
胃腸(漢方の脾)が冷えて血を作りにくい時は温中健脾薬を、
痰湿で血や子宮が粘る時は燥湿化痰薬を、
出血し易い時は止血薬や昇気薬を併せて、血を増やして巡りを良くし、その結果、妊娠し易くなると同時に、流産しにくくなります。

妊娠前は、血を増やし巡りを良くして瘀血を溶かし、
妊娠直後は、巡りを良くする薬を止めて、気を持ち上げて流産を防ぎ、
悪阻が始まったら、持ち上げる薬や温める薬を止めて吐気用の薬を使い、
悪阻が治まったら、吐気用の薬を止めて、出産直前まで血を穏やかに増やしていきます。
出産後は消耗した気血を増やして母乳の量を増やし、瘀血と痰湿を除いて乳腺炎を起こしにくくする漢方を処方します。

初めてのお子さんの時は、上記の睡眠で良いのですが、二人目のお子さんを御希望の場合は、上の子がいて眠りが浅くなるので、要注意です。
上の子が隣にいる時は、睡眠時間を1時間増やして10時間にする必要があります。
それが無理なら、御主人に上の子と一緒に寝てもらい、自分は独りで9時間寝るようにすることもできます。

さらに詳しく知りたい方は拙著「マンガ 睡眠と漢方で治す婦人科疾患」をご覧下さい。

男性不妊症の場合は、女性と治すポイントが少し違ってきます。
生殖にとって一番重要な臓器は腎ですので、腎臓を温める漢方薬を使います。
胃腸が冷えると腎臓も冷えますので、胃腸を温める漢方薬と、気を持ち上げて精子数や運動率を上げる漢方薬も組み合わせます。
食事は、温かいものだけ飲食することが大事になります。

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