初めに

人体を流れるエネルギーを漢方では“気”という言葉で表します。この気が流れる通路が経絡です。
この経絡は水の流れに似ていて、国土の一級河川のように太く大きな流れもあれば、それらを結ぶ運河のような細い流れもあります。人体は太い流れ、細い流れに網の目のように覆われ、そこを気が常に流れ巡っているのです。
この気の流れが順調な時は体に問題はありません。しかし、流れが悪くなると体に調子の悪いところが出現し、流れが止まるとそこに痛みが生じると、漢方理論では説明しています。
その経絡上には診断と治療を兼ねた点がいくつも存在し、これを“ツボ”と呼びます。
このツボを刺激して気の流れを整え、体を直すのが鍼灸治療です。

針治療・皮内鍼

置き針の一種で長さはわずか2mmしかありません。これを皮膚に深さ0.3mmくらい刺し、落ちないように上に丸いシールを貼り付けます。たったこれだけの治療なのですが、筋肉や腱の弛緩能力は素晴らしく、肩、腰、膝の治療には主にこれを用います。針を刺す痛みもほとんどわかりません。
効果の持続時間が長いのも魅力で、一度の治療で2週間くらい効果が続きます。
簡単な肩こりなら、一度の治療で7~8割の方が直ってしまいます。
針を付けている間、入浴も問題ありませんが、こすって落とさないように注意して下さい。

毫針

昔からある最も一般的な治療用の針です。新しいタイプの針治療ができても、基本はこの毫針で、治療効果も確実な、針治療の本流です。
筋肉や腱の治療はもちろん、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニアのように神経が圧迫されて生じる痛みやしびれの治療にも使えます。神経症状の治療は筋肉や腱の治療より難しいのですが、毫針による治療で画像的に神経圧迫像の変化はないものの、神経表面の気の流れが改善する為か、5割くらいの方は症状が改善します。
更に脳出血や脳梗塞後の麻痺の治療にも抜群の効果を発揮します。初期の認知症にも効きます。
しかし、皮内鍼に比べると治療効果の持続は短く、3日間から1週間くらいです。
脊柱管狭窄症・椎間板ヘルニアでは週に2回、麻痺や認知症では毎日針治療を行う必要があります。
針を怖がる方がおられますが、弱いところを補う治療ではマッサージ以上の快感で、涎を垂らして寝てしまわれる方が多いようです。ただし、麻痺の治療では少し痛みを伴わないと効きません。

耳針(金粒針)

1950年代から発展してきた、比較的新しい針治療です。人体の一部分が人体全部を反映するという考えに基づき、耳のツボを使って体全部の治療ができます。
実際は痩せる治療の時など、補助的な針治療に用いることが多いようです。
中国では小さな針を使いますが、日本では軟骨を傷つけないよう、粒をツボに貼り付けるやり方がほとんどです。これなら刺さないので怖くありませんし、金色の粒が耳のアクセサリーに見えます。
1日3回、自分で粒を押して刺激しますが、3日~1週間毎に粒を貼り替える必要があります。

火針

真っ赤に焼いた太めの針を一瞬にして刺す、古い歴史を持つ針治療です。日本ではほとんど行われていません。見た目は非常に派手で恐ろしく感じるのですが、実はほとんど熱くありません。
ガングリオンやイボ、脂肪腫、限局性の粘液水腫などに効果的です。

三稜針

ツボや紫色になった毛細血管を刺して出血させる治療を、瀉血療法とか刺絡療法と呼びますが、その時に使う針です。血が固まった“?血”の治療に使う他、麻痺や痺れの治療、熱や腫れを引かせる治療にも使います。出血量は胡麻3粒くらいですが、少し痛いのが欠点です。

灸治療・温灸

刺した毫針の上にモグサを載せて火を付けるやり方です。細い針を通して熱が伝わるため火傷しません。
ツボも熱い感じよりポカポカ温かく感じます。気を補う効果や寒と湿を散らす働きに優れます。
ガングリオンや脂肪腫の治療も火傷せずに行うことができます。

条灸

棒状にしたモグサを少し皮膚から離して暖めるやり方です。火傷はしません。道具を使えば、条灸を持つ手も疲れません。家庭で患者さんやご家族が、自分たちで膝の治療をするのに向いています。

隔物灸

元々は切った生姜などの上にモグサを載せるやり方ですが、最近では千年灸など輪状の断熱版にモグサを載せたものが売られています。御家庭で患者さんが自分でお灸をされる時に、使っていただいています。火傷はごく小さなもので、ほとんど残りません。

直接灸

米粒かその半分の大きさのモグサを直接皮膚の上に置き、火をつけるやり方です。確かに熱いのですが、火傷は小さく浅いものです。胃腸や足腰、頭をしっかりさせるツボである足三里などに、御家庭で患者さんが自分でお灸を行います。

吸い玉療法

ガラス瓶や竹缶などの吸い玉を使い、ツボに陰圧をかけ吸って刺激する方法です。
吸い玉単独でも治療できますが、毫針や刺絡療法と組み合わせると、要らない“邪”を外に追い出す
効果が増大します。メスで切らずに膿瘍を治す時には、特にお勧めです。